TEL.078-341-1897

(平日) 9:30-18:00 (土) 9:30-17:00

お問い合わせ・資料請求

TEL.078-341-1897

(平日) 9:30-18:00 (土) 9:30-17:00

学びと気持ちに、そっと寄り添う 神戸セミナー > コラム > 真面目でない方がうまくいく ~不安が高まるとトイレに行くBくんのケース~

中退・不登校でお悩みの保護者のみなさまへ

心を軽くする教育コラム

神戸セミナー流「お気軽のススメ」

真面目でない方がうまくいく ~不安が高まるとトイレに行くBくんのケース~

この記事をシェア
twitter
Facebook
LINE
中学生ぐらいになると、増え始めるのが不登校です。子どもが突然、学校に行かなくなると、親としては「どうして、こんなことになってしまったのか」と悩むでしょうし、なかには私のせいだと自分を責める保護者様もおられるでしょう。

しかし、原因をさぐるよりも、状況をありのままに受け止めてどうやって変えていくかを考えることのほうが有効だと考えています。そもそも、子どもの日々の活動をすべて、親が知ることはできません。仮に子どもが話してくれたとしても、それは実際に起ったできごとのすべてではありません。ましてや子どもの心の中にわきあがっている複雑な思いを、親が完全に理解するのも難しいでしょう。仮に問題の原因を追究できたとしても、過去は変えられません。

それより大切なのは、これから先どうありたいのかを考え、ともかく何かを変えることです。一つ変えれば、子どもの行動パターンが変わります。それをキッカケとして保護者も少し見方を変えてみませんか。5年先、10年先にお子さんが自分で決めた目標を達成して、みんな揃って笑顔になっている家族をめざしましょう。

 

  • ここからは、実際の神戸セミナーの事例から、どのように行動が変わっていったのかを紹介していきます。

 

中学で成績優秀で成績も上位だったBくんは、公立進学校に入学しました。しかし中学時代から不安が高まり緊張すると授業中でもトイレに行くことがよくありました。

高校でもしっかり授業に付いていき成績は平均以上です。しかし、2年生になったころから授業中にトイレに行く回数が増えてきました。先生や友人が心配して声をかけてくれてもニコニコして「大丈夫」と返事していました。Bくんはみんなに心配をかけたくないと思って明るくふるまっていましたが、一方でその行為は「嘘をついている」「みんなを騙している」「そんな自分は悪い子だ」とも思っており、ますます明るさを失っていき、高校に行くことができなくなり、高校を中退しました。

 

1. トイレに行くことを「良くないこと」と見ない
〜「問題とされること」に焦点を当てない

最初にBくんと面談をしたときに、ものすごく礼儀正しい人だなと思いました。丁寧に挨拶をして適切な敬語で話してくれます。しかし話し始めて1分ほどで「ごめんなさい」と言ってトイレに行かれました。トイレは面談室のすぐ近くでした。場所を案内したあと、面談室で5分ほど待ちました。戻ってくると申し訳なさそうに「すみません」と何度も謝ってくれます。そしてお話しを再開して3分ほどでまたトイレに行きました。こういうパターンが何回か続きました。

事前にお母さまから聞いていたのですが予想以上の頻度でした。初対面の大人と話すことで緊張が高まり、何度も行くことで話が進まないことを「申し訳ない」「トイレに行ってはいけない」と思いすぎて一層そうなっているのではないかと仮説を立てました。

するとやることは決まってきます。トイレに行くことは申し訳ないことではないと思ってもらうことです。初回面談の後半でこうお願いしました。

トイレに行くことは悪いことではないです。何度でも行ってください。

行くときと戻ったときに「すみません」や「ごめんなさい」と言わないように。

この2つです。

くんは戸惑ったような、そして少し嬉しそうな表情をしました。その数分後、トイレに行こうとして「スミマセ、、、あっ」と言って苦笑いしながらトイレに行きました。その後、面談室に戻ったときに行くときの言い方を一緒に考えました。口癖で「すみません」と言ってしまうよね。ちゃんと言い方を決めようと相談し「行きまーす」と明るく言うか「ちょっと、、、」だけ言うかのどちらかにしました。

 

高卒認定試験を受験して大学合格を目指す。まずは週に1回の個人授業

くんの場合、学習は苦手ではありません。本人はカウンセリングだけでなく学習もすぐに進めたいと希望されます。しかし真面目で頑張りすぎて完璧にしようとする傾向を感じていたので、最初は凄く余裕をもってそろりそろりと始めてね、とお願いしました。アクセルを踏みたがるBくんに対してアクセルよりもまずブレーキを踏むことが大切ですよ、と助言してみました。高校在籍時と同じように、頑張って学習しよう思っていると同じことが起きてしまいます。不安を失くし安心感をもったうえで学習するということを目指しました。不安の要因は「決めたことをちゃんとやらないといけない」という完璧主義なところではないかと考えて「学習量は少なめで余裕を持って進める」と言う方針にしました。

そこで「週に1回、現代文の個人授業を1時間」「月に1回カウンセリング」で通ってもらうことを提案し、合意してくれました。

個人授業を担当する教員には

・実施する場所はトイレの近く
・初めにトイレの位置と、遠慮なく行くことを伝える
・トイレに行くことに焦点を当てないで戻ったら普通に学習を続ける

と言う3つを指示しました。トイレに行った、行かないの話をしないことを徹底しました。「行く回数が減った」「今日は行かなかったね」も禁止です。「話題にしない」ことを学校内で共有しました。すると1か月ほどでBくんがトイレに行く回数は減っていきました。

 

2. お母様が「何時に帰ってくるの?」と聞くのをやめていただく
〜家庭でのパターンを変える

 

神戸セミナーでは入学前からご両親との面談(カウンセリング)を何度も行います。言うまでもなく、教員やカウンセラーよりも本人と接する機会が多いのはご家族です。こちらが面談で心の余裕を持っていただくように話をしても、保護者の方が「もっと勉強しなさい」「志望校を早く決めなさい」「その大学はレベルが高いのよ」「そんなにのんびりしていて間に合うの」など、アクセルを踏むよう促されると、せっかくのカウンセリングの効果がゼロになってしまいます。そこでこちらの仮説とどのような方針で進めようとしているかを保護者様に説明し、理解と納得をしていただいたうえで進めていくことが大切になってきます。

まずは両親で来ていただき面談を行い、その後、定期的にお母さまとの面談をさせていただきました。お母さまは当初は、毎日通わせたい、もっとたくさん勉強させてほしい、というお気持ちがあったようですが方針を伝え、Bくんの表情が明るくなってきたことや、トイレに行く回数が減ったことなどを報告すると納得していただきました。

入学して6か月ほどたち学習のペースを上げていきました。そのころは面談(カウンセリング)の時にトイレに行くことはゼロになりました。個人授業でもトイレに行く頻度は減りました。一方で、教室での集団授業は他の人の視線が気になり出席するのが困難な状況が続いていました。

そこで、もう少し物事を「ルーズに」考えてもらうことはできないかと考えました。お家での様子を詳しく伺うと、Bくんはお家でもきっちり挨拶をし、家の手伝いもする素晴らしい「良い子」です。時間もきっちり守り、面談や授業に遅れることは1度もありません。

さらにお母様自身のお話を伺うと、とても几帳面でテキパキと家事をこなされ「息子が出かけている間に洗濯を済ませて買い物に行き、帰宅するころには夕食の準備をはじめておきたい」と思われていることがわかりました。なので、Bくんに「何時に帰ってくるの?」と帰宅予定時間を聞いて、それに合わせて家事の予定を組み立てて考えていらっしゃるとのことでした。生真面目なBくんは、自分が申告した時刻通りに帰ってきます。それを聞いてパターンを変えていただくことをお願いしました。お母様には、Bくんに帰宅時刻を聞かないこと、夜遅くにならない限り何時に帰るかを気にしないことをお願いしました。

本人には面談で、時にはまっすぐ家に帰らず、寄り道をする、やりたいことをする、という「課題」を出しました。やりたいことって何かないの?と尋ねると、漫画を大人買いすること、一人カラオケに行くことなどを恥ずかしそうに話してくれました。どうしてしないの?と聞くと、「だって、、、、高校を中退して、、まだ勉強もたくさんしていないから、、、、楽しいことをするのは良くないと、、、」と、気持ちを語ってくれました。

そこであらためて、今の方針は心の余裕を持つこと、笑顔と元気を快復することだよ、そのためには、頑張って楽しいことをするが必要だよと確認しました。それ以降、帰宅時刻を母と約束することをやめて、時々ショッピングなどに行くようになりました。すると授業の時にもトイレに行くことはほぼなくなりました。

 

「嘘をつくこと」は悪いことではない

くんは「高校を中退したことは悪いこと」「心配してくれた友達に、大丈夫だと嘘をつくのは悪いこと」と思っていました。面談の中で「良くない嘘」と「良い嘘」があることを説明しました。

人を不快にさせる嘘、人を損させる嘘、自分の過失をごまかす嘘は「良くない嘘」であり
人を傷つけないための嘘、人間関係を対立させない嘘は「必要な嘘=良い嘘」であること。Bくん周りの人に心配をかけないための嘘は決して悪い嘘ではないこと。ただし自分が困っていることを隠すのは自分がさらに困るので、神戸セミナーではだめだよ、と伝えました。それを聞いたBくんは驚いたような、安心したような、意外そうな表情をして、困りごとを今後は隠さないと約束してくれました。

 

3. 試験の合間は一人カラオケで時間を過ごす
〜不安を下げるために自分で工夫をすることを身に付ける

くんは高卒程度認定試験(高卒認定)を受験しました。彼の学力だと特に準備しなくても合格できることは確実です。でもそれは、不安とストレスを感じずに試験会場で過ごせて平常心で受験ができれば、との条件付きです。

彼は強迫神経症と診断されています。診断書を添えて文科省に「別室受験」の申請を事前に行い、承認されました。高校1年生を修了しているBくんは、高卒認定試験8科目のうち4科目が免除されます。そのため昼休みを挟んで2時間ほどの空き時間がありました。試験会場には個室の控室などもちろんありません。この時間に不安を感じることなく過ごす対策を考える必要がありました。

高卒認定1か月前の面談で彼は嬉しそうに

先生!作戦考えてきました!

と報告してくれました。それは、10分歩いて駅の近くまで行ってカラオケボックスで過ごすというものです。「おお、それは良いアイデアだね。その手があったか!でも、勉強したらダメだよ」と伝えました。試験の直前に問題などを見るとBくんは「わからない部分がある」と思ってしまい動揺して焦ってしまう可能性があるからです。Bくんは頷いてこう答えました。

先生、わかってますよ。もちろん一人で歌いますよ。カラオケボックスなんだから!

これは入学時のBくんからするとあり得ない回答でした。長い休み時間に自分は不安になってしまうということを適切に理解して、事前に対応することができるようになったことをうれしく思いました。

 

国立大学にチャレンジし、私立大学に進学

くんは高卒認定試験に合格し、センター試験を受験しました。高卒認定の時と同じように別室受験の申請も行いました。センター試験の自己採点はまずまず実力を出せた点数でした。第1志望の難関大なら合格は10%程度。第2志望の国立大だと50%ほどの見込みであることを伝え、どういう受験にするかを相談すると「第1志望を受けたい」「不合格でもいい。その方が納得できる」と迷うことなく答えてくれました。入学時とは違い、こちらの目を見ながら迷うことの無い口ぶりでした。その面談の時にトイレに行くことが無かったのは言うまでもありません。

国立大は不合格でしたが、事前に合格している私立大学に進学されました。家庭で話し合い、一人暮らしをさせてもらうことにしたとのことです。大学進学後も月に1回程度の面談を希望されました。最初は「知らない人」ばかりなので楽だったが、数か月で知り合いが増えてくると教室がしんどいこと、それに対して授業開始ぎりぎりに教室に行って、最後列に座ることで何とか出来ていることなどを語ってくれました。

・うまくいかなくても構わない。
・失敗してもいいからチャレンジしたいと思える。
・自分の状況を理解して自ら考えて工夫ができる。

この状況をお互いに確認したうえで「もうカウンセリングなしでも良いと思うよ」と伝えました。

神戸セミナー校長・カウンセラー

喜多 徹人Kita Tetsuto

滋賀県立膳所高校時代、硬式野球部1番セカンドで夏の甲子園出場。
(県予選での「5試合で3塁打6本」は今も滋賀大会記録)
駿台予備学校で2浪の後、京都大学法学部へ進学。
学生時代は、母校の野球部のコーチ、家庭教師、学習塾の運営と講師を経験。生徒、保護者、教諭対象の進学講演の講師として年間90回の講演を担当している。趣味は多彩で、混声合唱、クラシック鑑賞、プロ野球観戦、アメフト観戦、テディベア収集、カメラなど。